【第5回】吉野大輔さん

yoshino02

インンタビュー直前に「普段は人の話を聴くのが仕事だけど、今日は逆だね」と吉野さん。そうだった!相手は心理学博士、駆け出しインタビュアーの拙さがバレバレだ。ややリードされつつも、色々なお話を伺うことができました。
今回はそんな吉野大輔さんのインンタビューです。

聞き手:櫻井 洋次

He said burn
−−−最初直球いいですか?
吉野「いいですよ」
−−−「死」に何かイメージってあります?
吉野「死については、結構毎日考えてる。寝る前とか。疲れて帰ってきて、布団に入って『ああ、気持ちいい!』っていうときでも、このまま意識がなくなって死んだら・・・一瞬考えて『やだな』としか思わない。もっとしたいことがある!、って考えちゃう」
−−−まだ不完全燃焼みたいな?
吉野「いや、燃えてるけど、もっと大きく燃やしたい。もっとクタクタになりたい」

Old man blues
吉野「ジム・モリスン*1みたいなのにも憧れはあるけど、自分はそのタイプじゃないなと。むしろ70〜80歳になっても現役で仕事していたい。また、そう出来る仕事だしね」
−−−生涯現役ですね
吉野「そう。それに今の自分も70歳ぐらいの先生の手を借りたいことが多々あるし。70歳になった時にはそうなりたいな、と思う」
−−−実際モデルになってる方いらっしゃるんですか?
吉野「いるいる。亡くなった師匠も、今お世話になっている先生もそう。そういう人達って同じ苦境を乗り越えてきてるから、言うことに説得力がある。例え同じ助言をもらったとしても『このひともこの苦しみを味わってきたんだな』って思える」

Bombs & Watermelon
吉野「PTSDって、阪神淡路大震災のころから耳にするようになったでしょ?」
−−−そうですね。災害とかの時に起きるストレス障害ですね?
吉野「そう。日本にいるとそういう認識じゃない?僕もそうだけど、学会で海外行った時、イスラエルでPTSDの研究している人と話してて、何でPTSDの研究を始めたの?って訊いたら『爆弾で親や家族を失った子供って多いじゃない?だから始めたのよ』ってさらっと言われた」
−−−日常の風景にあるんですね・・・
吉野「そう。日本と違うよね。で、もうひとつその人との話がある」
−−−お願いします
吉野「その学会期間中、『お腹こわしたから部屋で休んでる』っていうから、何か食べるもの買ってこようか?って言ったんだ、一応。そうしたら『フルーツがいい』って。で、市場に行ったんだけど西瓜ぐらいしかなかった」
−−−腹こわしてる人に西瓜は微妙ですね・・・
吉野「そうでしょ?そう思ったけど、持って帰ったら喜んで。じゃあって、ここで普通なら包丁なりナイフなりで切ると思うでしょ?」
−−−次の展開としてはそうですね
吉野「それが違った。バコッと豪快に割った!」
−−−!!
吉野「で、呆然と見てたら『爆弾で吹っ飛んだ頭みたいでしょ?』って言ったの。で、最初意味がわからなかったから微妙な顔してたら『あら、笑えなかったかしら?』と」
−−−日本ではアウトなフレーズですね
吉野「そう。でも、そういうのがジョークになる状況にいる人なんだなと。よく同じ失業者同士とか介護経験者同士で、苦しい状況を冗談にして笑うことってあるでしょ?」
−−−ありますね
吉野「そういう感じに近いのかな?でも、そういうタフな状況ではそんなジョークを言う神経の太さが必要なのかな、と思ったり」

Animal
吉野「心理学では猿で実験したりもするんだけど、知覚は人間にかなり近い。でも、これはないだろうと思われているのは自己意識。これは他人からどう見られているかってことだけど、鏡みて髪型整えてる猿ってみたことないでしょ?」
−−−そうですね
吉野「もうひとつが死の概念。歳をとった猿が『おれも、もうすぐだな』と思ってるようには見えない。多分だけどね」
−−−思ってたら面白いですね
吉野「あと、猫や象は死期を悟って身を隠すとか、言われてるけど、あれも体が弱って防御を地形でカヴァーしようと思った結果なんじゃないかなと思う」
−−−防御するのに同じような場所を選ぶから、墓場みたいなのができる、とも見えますね
吉野「そう言う意味では、人間は『自分がいつかは死ぬ』と知っている希有な種なのかも知れない。他の動物との境界線としての『死の概念』は大きい気がする」

Specialty
−−−これからやっていきたい事ってありますか?
吉野「ある!僕の専門の障害児教育の分野って、ときどき「温かい心」と「優しい気持ち」があれば誰でも出来る、と思われる事があるんですね。でも本当は専門的な知識が不可欠。障害の知識はもちろん、生物学的、社会的な知識がないとできない」
−−−なるほど
吉野「適切な時期に適切なことをしないと子供のその後の発育にも影響するし。親がどこまでを求めるか、というのもあるかもしれないけど、単に面倒をみてるだけ、ではなくて、後の子供にいい影響を与えるのであれば、やっぱりプロフェッショナルの力が必要だと思う。でも職業的仕組みはまだできてない。やっぱり職業的価値が認められないと根付かない。だから、そういう仕組みを作っていきたいと思う」
−−−具体的には?
吉野「もっと情報発信して、障害は結構なパーセンテージで存在する、ということも、もっと世間に知らせないといけないし、得意分野を持ち寄ってチームを作ってその子に合ったプログラムを組んだり、就職支援も重要だからスキルを身に着ける訓練や、色々な企業との連携していく環境を作ったり」
−−−課題が多いですね
吉野「親のケアも大切。受容しなきゃいけない。最初は、当たり前だけど、認められない。ちょっと自閉傾向があって、日常生活に支障はありませんが通常学級では・・・というと、受容してもらえない。『うちの子は大丈夫です。確かに成績は悪いかもしれないけど・・・』って。児童精神科医ってすごい少ないから、専門的な知識のないお医者さんが「大丈夫ですよ」なんて無責任に言っちゃう。そうすると親としてはそっちに縋っちゃう」
−−−親御さんの心理としてはそうでしょうね
吉野「でも、そうすると子供にとっては最もよくない状況が続いちゃう。専門的なケアも受けられないで、通常学級で不適応とされて、本来持っていた可能性がどんどん狭まっていくことになっちゃう」
−−−日常的な会話で出てくる状況になればいいですよね。花粉症とかみたいに。
吉野「そう、病気や健康の知識はマスメディアでよく取り上げられるから、そういう状態になるといいよね。知識があれば症状と繋がるから」

*1 ジム・モリスン(1943-1971) ミュージシャン・詩人。60年代に一世を風靡したthe Doorsのヴォーカル。27歳で死亡している。

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吉野 大輔(Daisuke Yoshino)
1975年生/秋田県出身
心理学博士
1998年 中央大学 文学部 教育学科心理学コース卒業
2003年 日本大学大学院 文学研究科心理学専攻 博士後期課程修了
2003-2005年 電気通信大学 サテライトベンチャービジネスラボラトリー COE研究員
2005-2007年 日本大学文理学部 情報科学研究所 ポストドクター
2009年 日本大学文理学部 若手特別研究員
現在 日本大学自然科学研究所にて自閉症児の知覚発達や教育支援教材の開発研究に携わる