【第2回】薄井啓亨さん

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1月20日にニューアルバム『東京の空は翳りを忘れ、ただ鬱々とギヤマンを落す』が発売したばかりの、ソニックアタックブラスター。そのヴォーカル&ギタリストである薄井啓亨さんに、インンタビューをしようと思ったのは、今回の作品(特に歌詞)に対してすごく興味があったからだ。
こういうバンドをやる人は、どんな感じで世を見ているのか、正直な感想を訊きたかった。その旨を伝えると、彼は感情や感覚について、一般論や建前ではなく、まっすぐな回答をくれた。
今回は結構へヴィーな話題が多かったですが、終止和やかに進んだのは、彼の人柄もあってのことだろう。
聞き手:櫻井 洋次
写真:櫻井 洋次

Before
ーーー本日は宜しくお願いします。
薄井「宜しくお願いします。引き受けてから言うのもなんですが、テーマが重いですよね。」
ーーー重いですよ。
薄井「(笑)」
ーーーでも、あまり記事自体は重くならない感じにしたいというのは本音ですね。なので、軽い会話感覚で。
薄井「できるかなぁ(笑)」

Childhood
ーーー子供のときの「死」のイメージってあります?
薄井「出身は栃木県の片岡という田舎なところなんですけど、こっち(東京)と違って葬儀場に行って、みたいなのではないんですね。みんな家でするのが普通。小学生の時、祖父が亡くなって初めて自分の家で葬式を体験したんですが、祭壇も近所の人が持ち寄ってくれた竹で組んで、遺体を何か消毒液みたいなもので拭いて、ドライアイスを入れたりもする。そうすると、大人のひとから『ほら膨らんできただろ?』とか言われて。」
ーーー今もまだあるんですね。
薄井「不思議なことに、一つ一つの作業行程があると「怖い」という感覚ではないんですね。だから葬式って『怖く』させない為のシステムなのかなと、最近は思うんです。怖いと遠ざかるでしょ?やっぱり。だから、先人の知恵というか、だんだんとこうなってきたのかなと。」
ーーー段階をきちんと踏んでいくことに集中すると「怖さ」を感じないと。
薄井「そう。身近な人が体が弱って亡くなるという時って、いよいよ、という時の為に考えておかなくてはならないこともあるし、そういう行程も含めて。」

Fear
ーーーでは「怖い」という感じではなかったと。
薄井「いや、ほんとに小さい頃に、2〜3歳かな?母親に手紙書いたことがあるんですよ。」
ーーーどんな手紙を?
薄井「『お母さん死なないでください』って(笑)」
ーーーいいエピソードっぽいですね?
薄井「(笑)今考えるとストレート過ぎるだろ?って自分でも思うのですが、当時はそれが一番怖かった。母親が居なくなること。だから、自分が死ぬことを想像して怖いと思うことは、あんまりなかったよう気がします。身近な人が死ぬところを想像する方が怖い。あとは、痛いのかな?とか、そういう具体的なことが怖かった。」

Die young
ーーー最初に「段階を踏んで行く」という話がありましたけれど、一方で事故等で急に亡くなる、というケースがあるわけです。そういう場面に遭遇したときの感覚って、どうですか?
薄井「高校生のとき、友達が原付の事故で亡くなったことがあったんですよ。普通に学校に来てて、普通に帰って、その夜にっていう。その時の告別式は、祖父が亡くなったときとは違う感覚で。」
ーーー何時間か前まで・・・っていうのありますからね。
薄井「それもそうなんですけれど、悲しみの方向が死んだ本人に向いていないんですね。」
ーーーつまり?
薄井「とりみだして、泣き叫んでるご両親の心中察すると、居たたまれない気持ちになる。だから亡くなった本人には『馬鹿なことをやって親御さん悲しませるなよ!』と、むしろ怒りの感情が働く。腹が立つ。」
ーーー確かに、そうかも知れませんね。
薄井「後になって、同級生と当時の思い出話をするような時に、やっと本人に対して悲しみは感じる。でも最初は怒りです。」
ーーー前の行程がなくていきなり死のポイントがきちゃうから?
薄井「そうそう『おい、待てよ』って思うのかもしれない。そう考えると、『死』っていうのは、脳死とか心臓停止の議論はありますが、その瞬間を指すものではなく、前後があって成り立つものなのかな」

Fiction & Real
薄井「でも最初に『死』というものを知ったのは漫画からかもしれない」
ーーー私もそうかもしれないですね。その辺の話で言うと「最近の人達は身近に死を体験していない」とか「ゲームみたいにリセットボタンがあるとおもっているんですかね」等々、評論家みたいな方が決まり文句みたいにいっていますが?薄井「そういうのが実際に色々な事件の原因になっているかは疑問ですね。」
ーーーPS3なんかリセットボタンないし(笑)
薄井「ねぇ?でもこういうこというと変に思われるかもしれないけど、漫画の登場人物でも、ずっと読んできた漫画なら『悲しい』と思う。それは小説でも映画でもゲームでも同じ。」
ーーーそうですね。
薄井「ですよね?小学校の時、発売前から雑誌とかで情報もチェックして、店で予約して、発売日までわくわくして待って、当日手に入れて、学校休んでまでやったゲームの主人公が、途中でミスして死んじゃう。これも悲しい。でも新聞で唐突にみる知らない人の死は、悲しいとまでは思わない。ポイントとして見せられる死は、それが現実世界のものであっても前後関係がないから、わからない。」
ーーー感情移入できる隙がないですからね。

Sanai Hashimoto
薄井「幕末の話していいですか?(笑)」
ーーーどうぞ(笑)薄井「橋本左内(*4)の婚約者が『斬首の際、左内がわめきもがいた』という話を聴いて安心した、エピソードがあるんですね。」
ーーー「安政の大獄」の橋本左内?
薄井「そう、その左内。」
ーーーで、彼女は何故安心したのですか?
薄井「そこです。切腹も含め『潔く死ぬ』というのが浸透している文化の中にいると『立派な最期を遂げた』というのは褒め言葉で、婚約者に最期の状況を説明するのに『わめきもがいた』というのは失礼な感じがするのでしょう。でも彼女は普段の佐内を知っていて『そんなことはないだろう?」と不信に思う。で、いろんな人をに問いただしてみるみると『いや、わめきもがいてたよ』と言う人が出てくる。それで『ああ。やっぱり私の知っている左内だった』と安心する。」
ーーー挨拶とはわかっていても、やっぱり本当のところが気になりますものね。
薄井「その下りで、僕も安心した(笑)でも幕末では、彼女は周りの人と『死』の感覚にギャップがあったのだろうなと。」

New Album
薄井「今度は昭和の話していいですか?」
ーーーいいですよ(笑)
薄井「僕達のやっているバンドも10周年を迎え、新しいアルバムがめでたく完成したのですが」
ーーーおめでとうございます。
薄井「ありがとうございます。その2曲目(十三階段狂想曲)は小林多喜二(*1)に関する本を読んでいて触発されて書き始めたんです。でも実際曲にしてみると盛り込めない!濃すぎて!」
ーーーあんまり詳しくはないのですが壮絶だったようですね。
薄井「実際に多喜二の拷問の跡の写真とか残ってるんですけど、そんなのを見ていくと、やっぱり曲にしきれない。そういう時代だったといえば、そうなのだろうけど」
ーーー9曲目はモップス(*2)のカヴァーですね。モップスのカヴァーはいくつか聴きましたが「永久運動」のカヴァーは初めて聴きました。そのチョイスはどこからですか?
薄井「もともと好きな曲で、今のバンドのカラーにも合ってるかなと思って。」
ーーーいい曲ですよね。
薄井「あとはGS世代の曲を、今の僕らが演奏したら周りにはどう響くのかな、というのにも興味ありました。」

Rock’n’Roll Suicide
ーーー自分自身の死について考えたことがあります?
薄井「高校生のときは、死に憧れみたいのはありましたね。三島とか読んで、ニール・ヤングの”Hey Hey, My My”(*3)聴いて「燻っているよりも燃え尽きた方がいい」なんて言葉にカッコいいなと思ったり。」
ーーー青春ですね。
薄井「でも今は、石川啄木の『高きよりとびおりるごとき心もて この一生を終わるすべなきか』(*4)に共感する。啄木には生きる理想があったのだなぁ、と。『死にたい』っていう願望って、生の執着に表裏一体なのかな、と思うんです。理想の形がなければ、壊そうとも思わないんじゃないか、思う。」
ーーー準備してることってありますか?
薄井「死んだときの?ないです。以前は”all apollogies”(*5)をかけて欲しいとか思っていたときもありますけど、今はないです。自分が死んだ時、周りの人がどんな風に弔ってくれるかは興味ありますけどね。」
ーーー弔いでまとめてもらってありがとうございます(笑)
薄井「(笑)いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます。」

*1 小林多喜二(1903-1933) 作家。1933年、警察の拷問により死亡。2009年「蟹工船」が再びブームとなった。
*2 モップス(the Mops) バンド。1968年結成。鈴木ヒロミツ(ボーカル)、星勝(ギター、ボーカル)、三幸太郎(ギター、ベース)、村上薫(ベース:1969年脱退)、スズキ幹治(ドラム)で活動。1973年解散。
*3 “Hey Hey, My My” ニール・ヤング(Neil Young)の曲。ジョニー・ロットン(Johnny Rotten)がセックスピストルズ(Sex Pistols)脱退に際しての発言「ロックは死んだ(Rock is dead)」に対するアンサーソングだとされる。1994年に猟銃自殺をしたニルヴァーナ(Nirvana)のカート・コバーン(Kurt Cobain)の遺書に歌詞の一部が引用された。
*4 「高きよりとびおりるごとき心もて この一生を終わるすべなきか」 石川啄木の詩。「一握の砂」に収録。
*5 “all apollogies” ニルヴァーナ(Nirvana)の曲。1994年、カート・コバーン(Kurt Cobain)が自殺した際、その歌詞の内容から頻繁にメディアで流された。

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薄井啓亨(Hiroyuki Usui)1980年生/栃木県出身
2000年中央大学在学中よりソニックアタックブラスターのヴォーカルとギターを担当現在に至る

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2nd Album「東京の空は翳りを忘れ、ただ鬱々とギヤマンを落す」
1.20000Volt
2.  十三階段狂想曲
3.  フォービズムステップ
4.  落日
5.  8オンスのブルース
6.  斬捨て御免の四捨五入
7.  東京エレジー
8.  白痴と富士山
9.  永久運動
10.  月よ、この胸の火よ
11.  巨星堕つ

11曲入り 2,300円(税込)
国内盤 CD/品番:RDCA-1013
制作:銀盤社 /流通:BounDEE,Inc.

【PV】20000Volt/ソニックアタックブラスター